中小企業向け賃上げ促進税制の活用状況と注意点
経理課社員リサと顧問税理士サキ先生の税務問答
税理士 野 川 悟 志
最近「賃上げ」の言葉をよく聞きます。賃上げをすると、法人税額の特別控除が受けられますね。この制度は現状どの程度の法人が活用しているのでしょうか?
ご存じのように、いわゆる賃上げ促進税制は租税特別措置法で措置されている制度です。このような租税特別措置の適用状況については、財務省から毎年「租税特別措置の適用実態調査の結果に関する報告書」として国会に提出されています。令和5年2月に提出され
た令和3年度の報告によると、中小企業向け賃上げ促進税制は13万1361法人(単体法人)が適用し、適用総額は1435億円です。その2年前の令和元年度では、適用は11万8355法人で、適用総額は1124億円となっています。
令和3 年度では109 万2000 円、令和元年度は95 万円となりますので、適用法人、適用額ともに増加しているようですね。賃上げした場合には、この制度が適用できるかどうか、きちんとチェックした方がよいですね。
ところで、この制度は例年のように改正されていると思いますが、適用に当たり何か注意すべき点はありますか?
令和4年度改正については、令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する事業年度の法人が適用になりますので、例えば令和5年3月決算の法人は注意が必要です。
中小企業向け賃上げ促進税制の主な改正点は、1点目に控除率の上乗せ要件の簡素化と控除率の引き上げ、2点目に上乗せ要件の教育訓練費に係る明細は添付義務から保存義務に変更、3点目は上乗せ要件の経営力向上計画に関する要件が廃止されたことが挙げられます。
控除率の上乗せ要件の簡素化と控除率の引き上げについて詳しく教えてください。
改正前は、雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて2.5%以上増加していて、かつ、教育訓練費の額が前事業年度と比べて10%以上増加しているか、経営力向上計画の要件を満たしている場合には、控除率は10%が上乗せとなりました。これが改正され、雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて2.5%以上増加している場合には15%が上乗せされ、これとは別に、教育訓練費の額が前事業年度と比べて10%以上増加している場合には10%が上乗せされます。つまり、この両方の要件を満たした場合には、原則的な控除率の15%に25%が上乗せされますので、控除率は最高で40%に
なります。ただし、控除額は法人税額の20%が限度です。
制度が簡素になったのは助かりますね。
それと、通常要件では、雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて1.5%以上増加している必要がありますが、仮にこれが1.5%未満であっても、いわゆる大企業向け賃上げ促進税制の通常要件である継続雇用者給与等支給額が、前事業年度と比べて3%以上増加している場合があるかもしれません。この場合には、大企業向け賃上げ促進税制が適用可能です。
賃上げした場合には、どちらの制度が適用できるのか慎重に検討する必要がありそうですね。
【筆者紹介】
近著『令和4年版税制改正経過一覧ハンドブック』(共著、大蔵財務協会)、『税務調査に活かす図解トレーニング』(大蔵財務協会)など。