中小企業向け賃上げ促進税制の活用状況と注意点

会報149号(2023.07)より掲載!

中小企業向け賃上げ促進税制の活用状況と注意点

経理課社員リサと顧問税理士サキ先生の税務問答

税理士 野 川 悟 志

税金QandA
リサ

 最近「賃上げ」の言葉をよく聞きます。賃上げをすると、法人税額の特別控除が受けられますね。この制度は現状どの程度の法人が活用しているのでしょうか?

サキ先生

 ご存じのように、いわゆる賃上げ促進税制は租税特別措置法で措置されている制度です。このような租税特別措置の適用状況については、財務省から毎年「租税特別措置の適用実態調査の結果に関する報告書」として国会に提出されています。令和5年2月に提出され
た令和3年度の報告によると、中小企業向け賃上げ促進税制は13万1361法人(単体法人)が適用し、適用総額は1435億円です。その2年前の令和元年度では、適用は11万8355法人で、適用総額は1124億円となっています。

リサ

 令和3 年度では109 万2000 円、令和元年度は95 万円となりますので、適用法人、適用額ともに増加しているようですね。賃上げした場合には、この制度が適用できるかどうか、きちんとチェックした方がよいですね。
 ところで、この制度は例年のように改正されていると思いますが、適用に当たり何か注意すべき点はありますか?

サキ先生

 令和4年度改正については、令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する事業年度の法人が適用になりますので、例えば令和5年3月決算の法人は注意が必要です。
 中小企業向け賃上げ促進税制の主な改正点は、1点目に控除率の上乗せ要件の簡素化と控除率の引き上げ、2点目に上乗せ要件の教育訓練費に係る明細は添付義務から保存義務に変更、3点目は上乗せ要件の経営力向上計画に関する要件が廃止されたことが挙げられます。

リサ

 控除率の上乗せ要件の簡素化と控除率の引き上げについて詳しく教えてください。

サキ先生

 改正前は、雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて2.5%以上増加していて、かつ、教育訓練費の額が前事業年度と比べて10%以上増加しているか、経営力向上計画の要件を満たしている場合には、控除率は10%が上乗せとなりました。これが改正され、雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて2.5%以上増加している場合には15%が上乗せされ、これとは別に、教育訓練費の額が前事業年度と比べて10%以上増加している場合には10%が上乗せされます。つまり、この両方の要件を満たした場合には、原則的な控除率の15%に25%が上乗せされますので、控除率は最高で40%に
なります。ただし、控除額は法人税額の20%が限度です。

リサ

 制度が簡素になったのは助かりますね。

サキ先生

 それと、通常要件では、雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて1.5%以上増加している必要がありますが、仮にこれが1.5%未満であっても、いわゆる大企業向け賃上げ促進税制の通常要件である継続雇用者給与等支給額が、前事業年度と比べて3%以上増加している場合があるかもしれません。この場合には、大企業向け賃上げ促進税制が適用可能です。

リサ

 賃上げした場合には、どちらの制度が適用できるのか慎重に検討する必要がありそうですね。

【筆者紹介】

野川 悟志 (のがわ・さとし)
1965年生まれ。国税庁課税総括課、国税局法人課税課などを経て、東京都品川区で税理士登録。
近著『令和4年版税制改正経過一覧ハンドブック』(共著、大蔵財務協会)、『税務調査に活かす図解トレーニング』(大蔵財務協会)など。

借入金の調査

実践税務調査

税理士 牧 野 義 博

個人からの借入金については、導入原資、つまり借入先のどこから払い出されたものなのかの確認が行われ、代表者等からのものであれば、個人預金等の提示が求められるのは確実で調査の受忍義務の範囲内となります。

あるベテラン調査官は代表者からの借入金について検討をしましたが、代表者の預金口座から出ている形跡がありません。代表者を説得したのですが、協力が得られなかったことから、やむなく銀行調査に移行しました。

借入金の入金日を中心に、法人の預金の動きと代表者やその親族名義の預金の動きをトレースしたところ、親族名義の普通預金に多額の出金があることが判明しました。さっそく調査官はその名義人と面接し、出金の使途を尋ねたところ、「そのような預金は持っていないのでわからない」との回答でした。「ははあ、これは借名預金だな!」。ひと昔前までは仮名預金が使われていたのですが、本人確認が厳しくなり今ではその手は使えません。

調査官は再度、銀行調査を実施し、借名預金とおぼしき普通預金の動きを復元してみました。すると、借名預金口座への振込金額が結構あるではありませんか。振込先に反面調査を行ったところ、調査法人の小口売上先であることが判明したので、代表者を厳しく追及しました。さすがの代表者も観念し、借名預金通帳とキャッシュカードを調査官に提示し、売上げを除外していたことを認めました。まさかここまで調査をされるとは思わなかったそうです。このように借入金は不正資金の導入に利用されることが多々あるのです。

売上除外等により簿外資金を確保しても、これを使わなければ意味がありません。今回は、会社の資金繰りが厳しくなってきたことから、簿外資金を表に出さざるを得なかったのですが、多くの場合は、いったん定期預金としてプールし、溜まりが増えてきたところで高級外車や高級マンションの購入といった個人的資産の購入の傾向が常態化しているようです。ちなみに高級外車については国税当局が常に購入者の把握をしていますので、個人の申告状況と常に照合しています。

最近では、純金の価格が高騰していることから、金のインゴットを大量に購入している場合もあるので、金取引業者への資料収集も国税当局では徹底しているやに聞いております。ちなみに、金の取引は本人確認が義務付けられているため、実名でしかできません。

【筆者紹介】

牧野 義博 (まきの・よしひろ)
東京国税局調査部において特別国税調査官、統括国税調査官、調査開発課長等を経て八王子税務署長を最後に退官。東京都新宿区で税理士登録。著書には『ザ・税務調査1~3』『税務トラブルと債務の確定』(大蔵財務協会)ほか専門誌等に執筆。HPは「牧野義博税理士事務所」で検索。全国各地で講演会も行っている。
もっと詳しい情報を知りたい方は→→→ 国税庁【タックスアンサー】 ←←←のサイトをご覧ください。
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