外国人留学生アルバイトを雇用するときの注意点
経理課社員リサと顧問税理士サキ先生の税務問答
税理士・行政書士 舟 田 浩 幸


先日、レジ業務のアルバイトを募集したところ、外国人留学生からの応募がありました。外国人留学生に支払う給与の源泉徴収はどうすればよいのですか。

外国人と日本人ではなく住所等の有無で居住者と非居住者に区分して源泉徴収します。原則として住所等の有無は実態で判断しますが、留学生については在学期間が1年以上であれば居住者と判定します。例えば、4年制大学の留学生は居住者、6 カ月間の短期留学生は非居住者となります。居住者に該当すれば、いつもどおり源泉徴収税額表で税額を算定します。非居住者に該当すれば、給与の支払金額に対して20.42% の税率で源泉徴収をします。また、留学生がアルバイトで得た所得は、租税条約に関する届出書を提出することによって所得税が免除される場合がありま す。出身国、収入金額、通学する学校(日本語学校等の学生は適用不可)等の条件によって免除されるか否かが異なりますので、個別に判断する必要があります。

わかりました。留学生が居住者か非居住者を判定して源泉徴収するのが原則で、一定の要件を満たせば、租税条約によって税金が免除されるということですね。

そうです。ところで、外国人を雇用する場合は不法就労に注意してください。不法就労となる主なケースは、①在留期限切れ等の不法滞在者の就労、②就労が許可されていない者の就労、③認められた在留資格の範囲外の就労等です。

どのように確認すればよいですか。

適法に日本に中長期間在留する外国人には「在留カード」が交付されています。氏名、生年月日、国籍のほか、本人の重要な情報が記載されていますので必ず確認してください。表面では、在留期間(満了日)欄で在留期間が過ぎていないかを確認してください。なお、留学生の場合、在留資格欄に「留学」と記載されています。在留資格は、日本に在留中にできる活動内容によって定められています。次に、就労制限欄ですが、留学生の場合「就労不可」となっています。留学目的の在留ですから、原則として就労はできないということです。

留学生は雇用できないということですか。

就労不可であっても、一定範囲の就労が許可されていることがあるので裏面を確認してください。「許可:原則週28 時間以内」と記載されていれば、週28 時間(学校の長期休暇(夏休み等)は、1 日8 時間、週40 時間) まで働くことが可能です。これまでの説明は、在留資格「留学」のものです。在留資格が異なれば就労制限の取り扱いが異なり、個別に判断する必要があるので注意してください。
【筆者紹介】
パワハラ防止で企業価値高めよ
日刊工業新聞社 岡 田 直 樹
2022年4月1日から中小企業でもパワーハラスメント対策が義務化された。大企業は2020年6月に施行済みだが、同様のルールが中小企業にも適用されることとなった。パワハラは行為者の問題として対処されやすいが、繰り返される職場では組織の体質に原因がありそうだ。中小企業ではトップの姿勢が決め手になる。義務化を企業価値向上のチャンスととらえ、体制づくりを急ぎたい。
改正労働施策総合推進法ではパワハラを「優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」と定義している。たたく、殴る、蹴るなどの暴力行為は言うに及ばず、部下を同僚の前で叱責したり、就業時間外に飲食を強要したりするなど、精神的な苦痛を与えるケースも該当する。
必要な対策を講じなかった企業に対しての具体的な罰則規定はないが、問題発生時のリスクを甘く見てはいけない。法律に違反した企業は、厚生労働省による助言・指導・勧告の対象になり、改善が認めらない場合は社名を公表されることもある。従業員のうつ病や自殺の原因になり、インターネットを通じて悪評が広がれば、企業の信用力は低下し、採用や業績に影響しかねない。
厚生労働省が2020年10月に実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間にパワハラを受けたことがあると回答した労働者は3 割を超える。内容は「精神的な攻撃」(49.4%)が最も多く、「過大な要求」(33.3%)、「個の侵害」(24.0%)、「過小な要求」(21.2%)などが上位を占める。
中小企業は義務化により、パワハラを行ってはならない旨を方針に明記し、行為者は懲戒処分になることを就業規則に定め、従業員に周知しなければならない。あわせて、従業員が相談しやすい窓口を設置して事実関係の迅速な把握に努め、行為が確認できた場合は被害者と行為者に適正な措置を講じる。また当事者が不当な扱いを受けないようプライバシー保護を徹底する必要がある。

パワハラ対策に過敏になるあまり、必要な注意や指導を避けるようになり、人材育成が手薄になってはいけない。上司が部下を叱る場合も、事柄の性質や互いの信頼関係によってはパワハラに該当しない。建設現場で工具を階下に落とした部下を厳しく叱りつけるのは「ヒヤリ・ハット」を防ぎ、重大事故の芽を摘むうえで重要なことだ。ただし「いつも、おまえはそうなんだから!」といった人格を否定するような叱り方は好ましくない。人権侵害になるだけでなく、職場の士気を低下させてしまう恐れがある。
中小企業にありがちな問題もある。「社長が行為者になっている場合、本人はパワハラとの自覚がなく、誰もブレーキをかけられない」と、企業のコンプライアンス(法令遵守)に詳しい弁護士は指摘する。社長は「自分に限って…」との先入観にとらわれず、自身の評価について従業員の声に耳を傾ける余裕を持ちたい。

新型コロナ感染症が落ち着いて景気が回復に向かえば、採用環境は再び「売り手市場」の傾向が強まり、雇用の流動化が進む可能性は高い。中小企業が多い小売、建設、製造、運輸などの業種では若手の取り合いになることが予想される。少子高齢化を背景に労働力人口の減少が続き、給与水準の引き上げがなかなか難しい中で、パワハラ対策は人材の獲得や定着に欠かせない時代になった。企業の持続可能性を担保するための経営戦略と認識しておく必要がある。