国外転出時課税制度について

会報153号(2024.7)より掲載!

国外転出時課税制度について

~経理課社員リサと顧問税理士サキ先生の税務問答~

税理士 山宅 孝道

税金QandA
リサ

 転勤により国外に転出したり、非居住者に贈与や相続があったりした場合において、一定の資産があると所得税が課税されると聞きましたが、どのような制度なのでしょうか。

サキ先生

 それは国外転出時課税制度というもので、平成27年度の税制改正で譲渡所得の特例として創設されました。この制度は2種類ありまして、1つは国外に転出する時に1億円以上の有価証券等、未決済信用取引等または未決済デリバティブ取引(以下「対象資産」)を所有等している場合に、一定の居住者に対して、国外転出の時に、対象資産の譲渡または決済があったものとみなして、その含み益に対して所得税が課税されます(「国外転出時課税」)。もう1つは、国外転出をしていなくても、対象資産を所有等している一定の居住者から、贈与、相続または遺贈により非居住者に対象資産が移転した場合にも、その時に対象資産を譲渡等したものとみなして、対象資産の含み益に対して所得税が課税されます(「国外転出(贈与・相続)時課税」)。

リサ

 一定の居住者とはどのような者なのですか?

サキ先生

 国外転出時課税の場合は、国外転出をする日前10年以内において、国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年を超えている者です。また、国外転出(贈与・相続)時課税の場合は、贈与の日(相続開始の日)前10年以内において、贈与者(被相続人)が国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年を超えている者になります。

リサ

 所得税の申告手続きはどのようにするのですか?

サキ先生

 国外転出時課税の場合、国外転出の時までに、納税管理人の届出をした場合には、国外転出をした年分の確定申告期限までに、その年の各種所得に、この制度の適用による所得を含めて確定申告および納税をすることになりますが、納税管理人の届出をしないで国外転出をする場合には、国外転出の時までに、その年の1月1日から国外転出の時までにおける各種所得に、この制度の適用による所得を含めて準確定申告および納税をすることになります。
 また、国外転出(贈与)時課税の場合は、贈与者が贈与の日の属する年分の確定申告期限までに、その年の各種所得に、この制度の適用による所得を含めて確定申告および納税をすることになり、国外転出(相続)時課税の場合は、相続人が相続開始があったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までに、その年の1月1日から死亡の日までに確定した被相続人の各種所得に、この制度の適用による所得を含めて準確定申告および納税をすることになります。

リサ

 納税が困難な場合に何か手続きがあるのでしょうか。

リサ

 国外転出時課税制度においては納税猶予の特例があります。納税管理人の届出や担保提供など一定の手続きを行った場合、納付することとなった所得税について、5年間納税を猶予することができ(延長の届出により最長10年間)、納税猶予期間の満了日の翌日以後4か月を経過する日が納期限になります。

【筆者紹介】

山宅 孝道 (やまけ・たかみち)
 1965年生まれ。東京国税局管内の税務署において管理・徴収部門、法人課税部門、資産課税部門等の事務に従事し、武蔵府中税務署資産課税部門上席国税調査官を最後に平成25年7月退職。
 埼玉県さいたま市で税理士登録。近著『令和5年版税制改正経過一覧ハンドブック』(共著、大蔵財務協会)。
もっと詳しい情報を知りたい方は→→→ 国税庁【タックスアンサー】 ←←←のサイトをご覧ください。
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