相続法の改正における税務上の注意点
経理課社員リサと顧問税理士サキ先生の税務問答
税理士 山 宅 孝 道
最近、相続のことが気になっています。平成30 年に相続のルールが改正されたと聞きましたが、どのように改正されたのでしょうか。
平成30 年7 月に民法で相続を規定している部分、いわゆる相続法が改正されました。これは昭和55 年以来の大きな改正で、具体的には①自筆証書遺言に添付する財産目録の作成
がパソコンで可能(平成31 年1 月13 日施行)、②預貯金の払戻し制度の創設(令和元年7 月1 日施行)、③遺留分制度の見直し(令和元年7 月1 日施行)、④被相続人の介護や看病で貢献した親族は金銭要求が可能(令和元年7 月1 日施行)、⑤配偶者居住権の創設(令和2 年4 月1 日施行)、⑥法務局で自筆証書による遺言書の保管可能(令和2 年7 月10 日施行)などの措置が行われました。
例えば、自筆証書遺言は、作成後の紛失や、相続人によって隠匿もしくは変造されるおそれがありましたし、遺産分割終了後に自筆証書遺言が発見され共同相続人間での紛争を生じさせる原因にもなり得ました。これらの問題を防止するために、自筆証書遺言の保管制度が創設されました。
税務上、取り扱いが変わったことはありますか。
まず、配偶者居住権の創設により、配偶者居住権の評価をすることになりました。また、遺留分制度については、改正前の民法では、減殺請求によって当然に遺留分権利者に所有権等の権利が帰属する物件的効果が生ずることされていたため、遺贈または贈与の目的財産は受遺者と遺留分権利者との共有状態になることが多くあり、共有関係の解消をめぐって新たな紛争も生じていました。そこでこのようなことを回避するため、遺留分権利者およびその承継人は、受遺者または受贈者に対し遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができることになりました。
配偶者居住権について、税務上の取り扱いで注意することはありますか。
配偶者居住権が、被相続人から配偶者居住権を取得した配偶者とその配偶者居住権の目的となっている建物の所有者との間の合意や放棄により消滅した場合、建物等所有者が、その消滅直前に、配偶者が有していた配偶者居住権の価額に相当する利益または土地を使用する権利の価額に相当する利益に相当する金額が、配偶者から贈与によって取得したものされます。
遺留分侵害額請求権について、税務上の取り扱いで注意することはありますか。
受遺者と遺留分権利者の合意により金銭の支払いに代えて相続財産である不動産等の分与が行われた場合は、代物弁済として譲渡所得の課税対象になります。例えば、遺留分侵害
額が3,000 万円であり、受遺者が相続した3,000万円の土地を遺留分権利者に金銭に代えて分与した場合、受遺者は土地を3,000 万円で譲渡したことになり譲渡所得について課税になります。また、分与を受けた遺留分権利者はその土地を3,000 万円で取得したことになります。
【筆者紹介】
交際費 商品券の購入費用
実践税務調査
税理士 牧 野 義 博
調査官は交際費勘定の内容について、会社に説明を求めています。
商品券の購入費用が交際費勘定に該当するとして損金の額に算入されていますが、商品券の具体的な配付先および金額が分かる資料を見せてください。
商品券使用リストがありますので確認をしてください。
このリストによると、商品券を配付したとされる「年月」欄に年月の記載、「相手先」欄に企業名の記載があり、「備考」欄に工事関係者などの記載があるものの、商品券を配付したとされる具体的な日、配付した相手先の氏名および商品券の金額の記載がありません。この商品券の具体的な使途が分かる資料を提示してください。
取引先の従業員等から便宜を受けたことなどから、これらの従業員等に対して商品券を使用しました。また、関与税理士にも毎年差し上げています。
会社が説明をした通り商品券はいただいています。
それでは、具体的にいつどのくらいもらっているのか証明してください。
記録を取っていませんので、具体的には立証できません。
商品券の受払簿等は作成していますか。
作成していません。
商品券の在庫の管理はしていますか。
していません。
以上からすると、商品券の具体的な配付の事実が明らかではなく、商品券に関する受払簿等を作成しておらず、また、他に商品券の具体的な配付先や在庫の存在を認めるに足りる証拠の提出がありません。従って、商品券の具体的な配付の事実を認めることはできず、商品券の在庫の存在も明らかではないことを併せると、商品券の使途は不明というほかなく、その使途が不明である以上、会社の業務との関連性の有無も明らかとはいえません。そうすると、商品券購入費用は交際費等の額に該当しないことから、各事業年度の損金の額に算入することはできません。
関与税理士の説明および商品券使用リストのとおり、業務に関連して配付をしたものであり、社会通念上、業務遂行上の必要経費として認められるべきです。
納税者が主張を曲げないことから、国税当局は更正処分を行いました。最終的には国税不服審判所に審査請求が出ましたが、納税者の主張は棄却されました。商品券を使用する場合には、必ず受払簿を作成し、使用をした相手先等が明確になるように留意をしてください。なお、期末に在庫がある場合には、資産勘定に載せることもお忘れなく。